中堅ゲームプランナーの呟き

ゲームにまつわる考察と愚痴と備忘録

【ゲーム開発メモ①】RPGのフレーバーテキスト

前書き

ゲーム開発において「誰でも」「どの現場でも」役に立つ
基礎的な知識や視点を備忘録にまとめていこう

という方針の記事。
迷ったとき、いつでも立ち戻って来れる場所として残していきたい。
テーマごとに記事を分け、価値観が変わればアップデートしていく。

今回はその第一弾。テーマは『RPGにおけるフレーバーテキスト』。

フレーバーテキストの定義

トレーディングカードゲームにおいて、テキストの文章欄に書かれている、ゲームのルールとは直接関係のないそのカードの背景設定や世界観を表現した文章。カードの効果や使用法について説明した文章はこれに含まない。※ピクシブより引用

一般的な定義はこうだが本記事では、
RPGにおけるフレーバーテキストを以下のように定義して話を進める。

フレーバーテキスト=攻略とは無関係の任意再生のテキスト全て

フレーバーテキストの例

  • アイテムのヘルプ文
  • モブNPCのテキスト
  • 背景を調べた時のテキスト
    ⇒任意でアクセスして読む
    ⇒報酬やパラメータの上昇に関係しない

NPCテキスト

背景テキスト

フレーバーテキスト以外の例

  • メインシナリオ上のテキスト
  • チュートリアルに関するテキスト
  • 報酬に関するテキスト
  • UI/ガイドに関するテキスト ...etc

メインシナリオ兼クエスト

フレーバーテキストの価値

RPGにおけるフレーバーテキストは『主要素の一部』

「プレイヤーの入力に対して、その世界がどんなリアクションを返すか?」
この体感を連続させることでプレイヤーを楽しませるのが、ゲーム。

アクションゲームなら…

  • カプセルに勢いよく当たるとカプセルが散らばる
  • 敵を殴ると痛がる
  • 敵をガラスに当てるとガラスが砕ける

プレイヤーのアクションに対する、ビジュアル的なリアクションを楽しむ

一方RPGでは、選択に応じたアクションやテキストの分岐が行われる。

  • 選択に応じた戦闘アクションを行う
  • 選択に応じてテキストが分岐する

プレイヤーの選択に対する、パラメータや言語(テキスト)のリアクションを楽しむ

繰り返しになるが、フレーバーテキストとそれ以外のテキストには「攻略に関するか否か」「再生が任意か否か」の違いしかなく、本質的にはフレーバーテキストはRPGにおける主要素であることに違いない。

フレーバーテキストのクオリティが高く、それ自体が訴求力になっている作品も存在しており、フレーバーテキストを理由に作品に興味を持つ人も少なくない。

RPGにおけるフレーバーテキストは主要素の一部であり、プレイヤー視点ではメインディッシュである。まずはこう認識するところから始めてみる。

名作と言われるには?

  • その世界に居たい(また行きたい)
  • その世界でまた何かを試してみたい

名作と謳われるゲームには、こう思わせてくれる要素が必ずある。

RPGで「その世界に居たい」と思わせるには、魅力的な世界観と、プレイヤーを魅了し続けるテキストによって、その世界に『没頭』させる必要がある。

しかし、没頭はゲームの世界が返すリアクションが、プレイヤーの期待を超え続けたときにしか起こらない。ハードルの高い話だ。

そしてその没頭が一定のラインを超えたとき、プレイヤーは世界が生きているような感覚を覚える。

ゲームに深く感動したことがある人にしか伝わらなそうな表現だが、少なくともRPGで名作と謳われるタイトルでは必ずこの瞬間が訪れる。これはRPGにおいて目指すべき到達点の一つであり、このために開発者は日々頭を悩ませることになる。

プレイヤーとの信頼関係

RPGにはプレイヤーが自由に探索し、その世界と触れ合う探索パートが必ずある。ゲームの構成上、探索パートはメインシナリオや戦闘パートまでの繋ぎであると同時に、RPGにおいて最も自由でインタラクティブなパートだ。

そのパートを彩るのがフレーバーテキストであり、プレイヤーの期待を超えるテキストが出続けることで、プレイヤーはその世界への『没頭』に一歩近づく。

同時に、プレイヤーの深層心理として「このゲームはアクションをすれば楽しい何かが返ってくる」という”期待と信頼”が積み上がっているということでもある。

発見(あれなんだろう…)→期待(何が起こるかな…)→アクション

そもそも、プレイヤーはこのような感情の動きを経た上でアクションを起こしている。このアクションに対し、期待を下回るおもしろさが続くとすれば、プレイヤーはアクションする気が起きなくなる。

”魅力的なリアクションを返し続けてくれる”という信頼を裏切ったゲームは、早々に見切りを付けられるか、適当に流されてエンディングを迎えることになる。(クリアする気持ちが残ってるなら、まだ良いほう)

だからこそ、プレイヤーの信頼を裏切らないためには…

[おもしろさ]-[アクションの労力]>期待値

何があっても、この大前提を覆すわけにはいかない。
開発視点では手を抜きがちなフレーバーテキスト一つでも、期待を裏切る事には変わらないので、プレイヤーがゲームをやめるきっかけとしては十分。

これは没頭以前に、最低限飛び越えなければならないハードルだということを肝に銘じておく必要がある。

クオリティ低下の原因

フレーバーテキストの価値については、開発者であればほとんどの人が理解している(はず)。それでも、アクセスする価値を感じないフレーバーテキストが存在する作品が無くならないのはなぜか。それはズバリ、開発の優先度に原因がある。

開発の優先度

RPGの一般的な制作順としてはこう。
左のピラミッド図では、ゲーム全体の制作順
右のピラミッド図では、中でもテキストに限った制作順を示している。

図の通り、フレーバーテキストは最も制作の優先度が低い
そのうえ、テキストは『テキスト』『グラフィック』『サウンド』『パラメータ』の中で最も修正が容易で、誰でも編集できる。≒経験の浅い新米にも振られがち

まとめると、開発者視点でのフレーバーテキストは最も下流工程に位置し、誰でも編集しやすいものであるため、クオリティが低下しやすいという特性がある。

開発者とプレイヤー視点の違い

開発者にとって、フレーバーテキストはあらゆる障壁を突破した末に現れる最後の壁。フレーバーテキストを書くことになる企画屋は、ここに至った時点で既に9割以上の役割を果たしており、満身創痍な状態であることがほとんど。

プレイヤーに開発事情など知ったことではないが、プレイヤーが感じ取れるものは、開発者視点でいえば氷山の一角。それでも、この一角が作品の価値であり評価となる。

そしてもう一つ重要な視点としてプレイヤーはアウトプットに対して重要度という概念を持たないという点がある。

本編ムービーシーン(左)/サブクエ内のカットシーン(右)

この2つのシーンは実装コストも制作フローも異なり、開発者視点では重要度に明確な差がある。

しかし、右のカットシーンにしか感動しないプレイヤーがいても、不思議ではない。何に対して感動するかはプレイヤー次第で、作品的に重要なシーンであるかどうかは無関係なのだ。開発上の優先度やコストなど以ての外。

当たり前の話だが、数年にも渡って開発をしているとつい、この視点が抜け落ちてしまう。特に、今回のテーマであるフレーバーテキストは開発の都合上、この意識が抜けがちであることを意識するべきだ。

プレイヤーは何にどう感じるかが自由である以上、フレーバーテキストはムービーシーン以上に価値を生む可能性があるくらいの意識で臨まなければ、クオリティのボトルネックになることは容易いだろう。

実践編

…とはいうものの、人数も期間も限られている中で、フレーバーテキストにそこまで工数を割くわけにもいかない。だからこそ、工夫が必要。

工夫の仕方

新人であっても、ライターでなくとも、時間が無くても、以下の条件のいずれかを満たし、書く視点に優先度を付けるという工夫をすれば、プレイヤーにとって無価値なフレーバーテキストにはならないはずだ。

  1. 主要キャラクターの深掘りをする
  2. 世界観の補填をする
  3. 共感性の高いネタを入れる

この番号順に優先度が高い。まずは1番の視点からアイデアを練り、シチュエーションにそぐわない場合や、何も浮かばない場合は次へ、といった具合で考えていく。

このとき、どうしても1〜2番でテキストが書きづらいとなった場合は、「世界観に対するフィールドのコンセプト」や「テキストを書く対象」がズレている可能性が高い

そうなった場合は、「主人公たちはこのフィールドで何を思っているのか?それを描くべきか?」「このフィールドには何の役割があり、何を表現するべきなのか?」「このフィールドの要件を満たすには、どんなNPCやフレーバーテキストが必要なのか?」といった視点まで遡ってみることをおすすめする。

以下には、項目ごとの実例を示しておく。

主要キャラクターの深掘り

プレイヤーにとって一番興味深く、喜んでくれる可能性が高いものなので、最優先。

「このとき、このキャラクターはどんなことを考えているのか?」「サブキャラクターやモブから主人公たちはどう見えているのか?」といった視点で、主要キャラクターたちの深掘りをする。

例)P3R:主要キャラクター同士で印象を話し合う

  • 真田先輩に対する、風花のイメージ
  • 美鶴先輩に対する、順平のイメージ
  • 順平の発言に対し、順平の趣味に言及する風花

「寮生活をしている者同士」という非常に書きやすいシチュエーションを利用したフレーバーテキスト。それぞれのキャラクターが他の人に対するイメージを語り合うことでキャラクター性の深掘りとなり、プレイヤーにとっても興味深い内容となっている。

例)P5:主人公の心理描写

物語の序盤から常に行動を共にしていたモルガナが居ない。
そんな状況を、作業机を調べた主人公が思いを馳せるという形で描写している。

ドラクエのような無口タイプの主人公かつ、アクセス対象が作業机という限られた条件下でも、ストーリーやキャラクターの描写はできるのだ。
※プレイヤーの心境と乖離しないことに細心の注意を払う必要はある。

世界観の補填

次点。フィールド全体の役割や、表現したいことを補填するイメージでテキストを考える。

例)FF9:襲撃に遭った鍛冶屋

前回の記事でも触れた、国家規模の襲撃に巻き込まれてしまった鍛冶屋の様子。

  1. 頑固おやじと弟子のウェインが常に口喧嘩している鍛冶屋
  2. 襲撃に遭い、ウェイン一人で切り盛りすることになった鍛冶屋
  3. 一人で心許ないウェインであったが、徐々に腕を上げていく
  4. 頑固おやじが現場復帰し、また活気を取り戻す鍛冶屋

メインシナリオの展開に合わせ、街の人々の生活の遷り変わりを描写。
アレクサンドリア国の一方的な殺戮が、その世界やそこに住む人々にどんな影響を与えたのか?という、メインシナリオ上では描き切れなかった世界観を補填する役割として機能している。

共感性の高いネタ

本当に何も浮かばないときの最後の手段。

例)P4:モブ主婦との会話

サラダ油のサラダって何? なあるあるネタ。

例)アークザラッド:モンスター図鑑のコメント

いつもハダカでカゼひかないのかな?

ふんどし姿のキャラクターに対する、少しメタ的な視点で共感できるフレーバーテキスト。リーザ(14歳の少女)にコメントさせているという建付けからして、おもしろい。

最後に

RPGのフレーバーテキストについて、現段階で思っていることをまとめてみた。
一言で言えば「フレーバーテキストでも気を抜くな」ということに尽きるのだが、こういった思想で開発に取り組んでみると、また見える景色が変わってくる人もいると思う。

神は細部に宿る。きっとプレイヤーはそれに気づいてくれる。
そう信じて、今日も開発頑張っていきましょう。

ではまた次回。